調査研究の計画概要(2025年度)

研究課題名 幼児教育と小学校教育の接続に関する研究:言葉と表現を媒介とした探究的活動に着目して
研究代表者 野澤 祥子 東京大学大学院教育学研究科 発達保育実践政策学センター 准教授
研究期間 2025年4月1日~2028年3月31日(3年間)
うち2025年4月1日~2026年3月31日の2025年度分を実施
研究目的

幼児教育・保育施設から小学校への移行は、子どもたちが大きな文化的変化を経験する機会である。その際に、子どもを学校に「準備させる」のではなく、幼児教育と小学校教育の関係者が慎重に検討する必要性が指摘されている(OECD, 2017)。日本では、2010年11月に文部科学省(幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方に関する調査研究協力者会議)報告「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方について」が出された。そこでは、それまでの議論も踏まえ、幼小接続カリキュラムの理論化が試みられている。その中では、直接的・具体的な対象との関わりを「人とのかかわり」「ものとのかかわり」の2領域で捉え、それを支える「言葉」と「表現」の役割を重視している。この点に関して、福元(2014)は、「『言葉』と『表現』が人やものとの関わりを媒介することに着眼点」が置かれ、「『言葉』と『表現』を媒介に『気付きや思考を深める』探究的な経験が、学びの経験に位置づけられている」と指摘している。

一方で、2023年2月には、文部科学省(中央教育審議会 初等中等教育分科会 幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会)による報告「学びや生活の基盤をつくる幼児教育と小学校教育の接続について ~幼保小の協働による架け橋期の教育の充実~」が出され、幼小接続カリキュラムへの注目が改めて高まっている。そこでは、5歳児から小学校1年生を「架け橋期」と位置づけ、幼保小の関係者が協働して架け橋期のカリキュラムを作成することを求めている。カリキュラム作成の際には、2017年に改訂(改定)された要領・指針において明記された、育みたい資質・能力として「知識及び技能の基礎」「思考力、判断力、表現力等の基礎」「学びに向かう力、人間性等」や「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」(いわゆる「10の姿」)を考慮することが必要とされている。さらに文科省が出した「幼児教育と小学校教育がつながるってどういうこと?(幼児教育及び小学校教育関係者向けの参考資料)」という資料では、「幼児期は、幼児が自発的・主体的に人やものと関わりながら、遊びを通して必要な能力や態度などを獲得していく時期です。」と書かれ、「遊び」を通した資質・能力の形成が重視されている。このように、近年の接続の議論においては、自発的・主体的な遊びの中で育まれる資質・能力が強調される。一方で、2010年の報告で重視されていた、「対象について『言葉』や『表現』を媒介としながら『気づきや思考』を深める探究的な経験」の重要性についても、再確認する必要がある。幼児期の遊びが重要であることに異論を挟む余地はないが、接続の議論において幼児教育と小学校教育をつなぐ学びの経験の質への考慮が十分になされているかを改めて問う必要があるのではないかと考える。

研究計画(要約) 幼児期の教育と小学校教育の接続のあり方について、2010年に文部科学省より出された報告書では、「言葉」と「表現」を媒介として「気付きや思考を深める」ことの重要性が指摘されていた。2023年2月の報告書では「架け橋期」という概念が提示され接続カリキュラムへの注目が高まっている。ただし、その中では思考を深める探究的活動に十分な焦点が当てられていないように思われる。現行の学習指導要領で「探究的な学習」が示されていることも踏まえ、本研究では、接続期教育における「言葉や表現を媒介とした探究的活動」の可能性を示したい。そのために以下の観点から研究を行う。第一に、幼児教育から小学校教育への接続期教育の議論の内容や背景について整理・考察する。第二に、園における接続期教育について、特に「言葉」、「表現」、「探究活動」の実践や考え方に焦点を当て保育者を対象とした実態調査を実施する。第三に、接続期の教育活動として、探究的活動を5歳児、小学校1年生のクラスで実践し、そのプロセスをアクションリサーチにより検討する。接続期に課題が生じやすいであろう日本語を母語としない子どもにも着目し、探究的活動を軸にした接続期教育の可能性を示す。